出演 : 一青窈, 浅野忠信, 小林稔侍, 余貴美子, 萩原聖人
監督 : 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
小津安二郎生誕100周年を記念して、台湾の巨匠ホウ・シャオシェン監督が日本で監督した作品。小津を敬愛するホウ監督だが、彼のこの映画での演出は、単に小津作品のスタイルや様式美を模倣するというものではない。東京で暮らすフリーライターの女性が、台湾の青年の子供を身ごもる。ひとりで生んで育てるという彼女に、父親と母親は言葉もなく静かに見守る。日々の生活と仕事に明け暮れる彼女の姿を、ホウ監督は淡々と追い続ける。
ホウ監督が本作で小津に捧げて見せたのは、その精神性ではないだろうか。一青窈が演じるフリーライターの女性は、かつての小津作品に登場する原節子の演じる上流階級の令嬢とはまったく違った境遇に生きている。だが日々を暮らすことで突き当たる問題や疑問は共通している。ホウ監督は自分の演出スタイルで、そんな”現代に生きる女性”の、小津的な精神性を捉え、ある距離を置いてそれを再現して見せた。こころ落ち着く時間を現したというそのタイトル通り、じっくりとそのテイストを味わうことが出来る傑作である。