出演 : ヘンルィク・ボウコウォフスキ, ゾフィア・マルチンコフスカ, バルバラ・クラフトゥヴナ
監督: カジミェシュ・クッツ
研ぎ澄まされた空間構築と、繊細きわまる音響設計を駆使して描かれる愛の物語
その過激な実験精神のおかげで長年封印されてきた、
名匠クッツの知られざる初期傑作
オムニバス映画『勇猛十字勲章』(59、未)で監督デビューした、カジミェシュ・クッツの長編第二作。
『勇猛十字勲章』に続いて、ユゼフ・ヘン(1923年~)が自作小説を自ら映画用脚本に翻案している。完成後、海外での上映が約25年にわたって禁じられ、ポーランド国内でも上映機会がほとんどなかった作品である。
第二次世界大戦終結直後。ワルシャワ蜂起に参加した元国内軍兵士のボジェク(ヘンルィク・ボウコウォフスキ)が、難民化した大勢の人々に紛れて列車に乗り、戦渦を逃れた街ジェルノにやってくる。
彼はある共産主義者を処刑することを拒み、軍規違反で戦友たちに追跡されていた。駅でボジェクは、戦災孤児と思われるルチナ(ゾフィア・マルチンコフスカ)とアルカの姉妹に出会う。
その後ボジェクは、川辺に建つ廃屋を住居とし、樽の積み下ろし作業の仕事に就くことになった。
職場長オルガ(ハリナ・ミコワイスカ)と、その助手ニウラ(バルバラ・クラフトゥヴナ)は、ともに中年女性だ。
やがてボジェクは、再会したルチナと惹かれ合うようになる。しかし同時に、ボジェクは職場の女上司二人の誘惑も拒む気配がない。そんなある日、彼は国内軍兵士時代の仲間ジグムントと偶然再会する..。
窓や扉を使ってフレーム内フレームを形成し、画面の手前と奥で同時に出来事を生起させる空間作り。
一人称ナレーションと現実音の歪曲を活用した繊細な音響操作。奇妙に振りつけられた俳優の動き。静と動が鮮やかに対比されつつ、観客の意表を突く諸ショットの斬新な組み合わせ。
写実と象徴の並存。視覚面・叙述面における大胆な省略。ポーランド映画が1950年代末期の時点で、すでに世界映画の”新しい波”の一角をなしていたことを証明する一作。